マリンジャーナリスト会議では、競技スポーツ、海に関するユニークな活動、学術的研究、安全普及、環境保護、ボランティアなど、広範な「海洋レジャー/文化の普及」活動に携わってきた人々、団体の中から、顕著な活動をされてきた方々を表彰する「MJCマリン賞」を創設しています。このほど、その「MJCマリン賞2012」について、去る2月2日に最終審査会および投票を行い、下記の通り決定いたしました。
なお2012年3月3日16時15分より「ジャパンインターナショナルボートショー2012」(神奈川県横浜市/パシフィコ横浜)の特設ステージにて表彰式を行います。ぜひお越しください。
■授賞内容、選考理由について
●MJCマリン賞2012 大賞
関野吉晴さん
探検家・医師の関野吉晴さんは、アフリカに誕生した人類がユーラシア大陸を通ってアメリカ大陸にまで拡散していった約5万3千キロの行程を、自らの脚力と腕力だけで遡行する旅「グレートジャーニー」を1993年より始めた。一回目の旅は、南米のチリ・ナバリーノ島をカヤックで出発、10年の歳月をかけてタンザニア・ラエトリにゴール。その後「新グレートジャーニー 日本列島にやって来た人々」として2004年から再び旅を始め、シベリアを経由して稚内までの「北方ルート」、ヒマラヤからインドシナを経由して朝鮮半島から対馬までの「南方ルート」の旅を経て、2011年6月13日にインドネシア・スラウェシ島から石垣島まで手作りの丸木舟による4700キロの航海「海のルート」を終えた。
マリンジャーナリスト会議では、関野さんの壮大な冒険もさることながら、造船や航法へのこだわりと日本人のルーツを南方の海に求めたルート設定が注目された。
「海のルート」ではコンパスなどの近代装備を一切使わず、星を見て方角を見極めるなどして手作りのカヌーで航海を成し遂げた。また、手作りしたのはカヌーだけではなく、造船に使う工具から。工具の材料となる砂鉄を集め、これを、日本古来の“たたら製鉄”で鉄にする。そのために使用する炭は、東京の杉や檜は火力が弱いという理由で、岩手県で松を伐採し合計5kgの工具を造り上げたという。「海のルート」の出発地点のスラウェシ島に自作の工具を持ち込み、カヌーに最適な素材の巨木を数ヶ月かけて探し出した。チェーンソーもドリルも釘も使わない造船方法には、現地の舟大工たちも驚いたという。
●スポーツ/アドベンチャー部門
立尾征男さん
静岡市の立尾征男さんは2011年6月から8月にかけて、全長20フィートのヨットを改造した艪漕ぎボートでアメリカ西海岸よりハワイにいたる約4000キロを48日間かけて走破した。
立尾さんは1991年にシングルハンドで太平洋横断航海に成功。2000年には単独無寄港東回り世界一周に日本人としては5人目の成功をおさめた(当時世界最高齢)セーラー。
2004年からは「ヨットでの世界一周は機器、機材が発達した現代では、本当の冒険とはいえない」と手漕ぎボートによる航海にチャレンジ。2度の太平洋横断を試みるもいずれも失敗した。しかし、その後もあきらめること無く、今回は徹底した艇の改造を行い、アメリカのサンディエゴからハワイを目指した。
今回のスポーツ/アドベンチャー部門の授賞にあたっては、70歳という年齢でありながら失敗を乗り越え、スポンサーもつくことなく普段は仕事をしながら、冒険に挑戦し続けた強い魂、精神力をもって挑戦し続けたことが注目された。
なお、立尾さんは舵誌の取材の中で今後は自身がまだ経験していない「西回り世界一周の航海を次の目標にしたい」と語っている。
●文化/普及部門
NPO法人 Blue Life
Blue Life(理事長:池田栄さん)は、「都内に子供たちが安心して遊べる豊かな海を!」をテーマに「アマモ場再生事業」や、子供たちとの交流の場を設け自然に親しみを持ってもらうことを目的とした「フィッシング事業」、ボートやシーカヤックを利用して沖合でのゴミ拾いを行う「環境保全事業」などを行っている特定非営利活動法人。
昨年の東日本大震災時には、ルアー募金やチャリティフィッシングなど独自の支援活動を展開した。そのうちのチャリティフィッシングは、釣り人が、アオリイカやシーバス等を釣り、その魚等を水産会社及び市場に買い取ってもらい、そのお金を支援金として被災地に送るというもの。神奈川県の三崎、静岡県の土肥の二カ所で開催し、釣りだけでなくチャリティーオークションや不要になった釣り具を寄付するタックル募金なども開催。2会場の開催で集まった約20万円の収益金を宮城県漁業協同組合に寄付した。
一般の釣り人が釣った魚を販売、また遊漁船事業者が釣り客からキャッシュバック等で得た魚を市場に水揚げしたりする行為については、スポーツフィッシングの精神に反し、釣り環境の悪化、果ては魚類資源の枯渇に繋がるものとしてJGFA(日本ゲームフィッシュ協会)も反対の立場をとっている。そのことについてはマリン賞の審査にあたったマリンジャーナリスト会議でも多くの会員が同調しているが、今回のBlue Lifeの支援活動については、被災地支援のためにイベント開催地の漁協に異例のケースとして協力を求めたこと、さらに漁業復興支援のために水揚げ金額を被災地の漁協に寄付したことが逆に注目され、授賞となった。
●安全/環境部門
今崎真幸さん
宮城県の七ヶ浜町で水上オートバイの販売会社「マリンメカニック」を営む今崎真幸さんは3月11日、同県内多賀城市で津波の浸水で孤立した市民約100人を、同社社員の鈴木茂貴さんとともに水上バイクで救助した。
新聞の報道などによると震災後、最初に鈴木さんが知人の女性から、多賀城市桜木で浸水した家屋に閉じこめられていると、携帯電話で救助を求められた。今崎さんは「水深が浅ければボートは使えず、水上バイクでないと救助できない」と判断。水上バイクをトレーラーでけん引して駆け付け、女性を救助した。
そのとき周囲は停電で真っ暗。助けを求める声が、歩道橋や水没した車の上、電柱の上から響いていた。今崎さんと鈴木さんは交代で水上バイクを操り、消防の救助用ボートを引っ張って何度も往復、約100人を救助した。当日は雪もちらつく寒さ。ずぶぬれで震えながら、深夜まで救助を続けた。
鈴木さんは「悲惨な現場だったが、無我夢中で救助した」と振り返る。多賀城消防署は「孤立者が多く、救助要請が殺到していた。機転を利かせて救助してくれたことに感謝したい」と話した。
今崎さんは「多くの人を助けられて良かった。水上バイクは消防署などにも採用されているので、有用性を再評価してほしい」と新聞等のインタビューに答えている。
ごく一部のルール違反、マナー違反が取り上げられやすいが、本来、水上オートバイはマリンスポーツとして魅力ある乗り物であるばかりか、官公庁をはじめ多くの団体に安全救助活動のツールとして導入されている側面を持つ。こうした水上オートバイの社会的有用性の認知に対する思いは当会としても今崎さんと同じであること、なによりも今崎さん、鈴木さんの両名の勇気ある行動に敬意を表し、安全/環境部門の授賞を決定した。